就業規則に規定のない出向
<事例>
会社は流通部門を別会社として独立させるにあたり、社員の大半は新規に採用しますが、核となる社員には会社の流通部門担当者を出向させることにし、太郎さんに出向命令を行ないました。
しかし、太郎さんは本社に残りたく、しかも出向すれば勤務地が他県になり、会社から30分の今の家を無理して買ったのに、出向すれば新幹線通勤で3時間近くかかってしまいます。
太郎さんはこれらを理由に出向を拒否し、会社はこれまで社員を出向させる必要がなかったため就業規則などに定めがないのですが、出向命令を曲げません。 |
本件の場合、会社は出向に関する規定を特に設けていませんから、単なる業務命令として社員に出向を強制することはできないと考えられます。
出向には、在籍出向と転籍出向があり、原則として、社員本人の同意がなければ、会社が強制的に出向をさせることはできません。
社員は労働契約によって会社の指揮命令下で働く義務を負っていますから、出向先の他の使用者の指揮命令下で働いてもらうためには、労働者本人の同意が必要になります。
ただし、このような場合でも、必ずしもその都度個別的に労働者の同意を得る必要はなく、包括的な同意があれば、社員を出向させることができるとされています。
ですので、就業規則や労働協約などに「会社は、業務上の都合により社員に出向を命じることがある」という旨の規定があれば、特別な事情がない限り、社員は出向命令を拒否することはできないのです。
例えば、運輸会社の判例では、会社がどんな場合に社員に出向を命じ得るか、その際の賃金額をいくらとするかなどの出向の諸条件は労働条件の一つであるとしたうえで「労働協約や就業規則による集団的画一的な決定となじまないものではないと考えられる。したがって、出向の諸条件が労働協約や就業規則で制度として明確にされている場合には、労働者のその都度の個別の同意がなくても、使用者は労働者に出向を命じ得る」としています。
出向に関する規定については、出向先、出向期間、出向先での労働条件、出向元への復帰に関する事項など、具体的な定めをしておく必要があります。
太郎さんは、出向に関する規定が設けられていなかったため出向を強制されないと考えられますが、包括的な規定があれば会社は社員に出向を命じることができます。
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