不利益取扱の労働委員会裁量の判例
<判例>
X会社でタクシー運転手として勤務していた組合員が解雇され、解雇後他の会社でタクシー運転手として稼動し、収入を得ていた。
組合は、当該解雇が不利益取扱に当るとして、職場復帰とバックペイなどを求めて救済申し立てを行なったところ、Y地労委は、組合の申立を認め、当該解雇を不利益取扱と判断し、かつ、解雇期間中の中間収入を控除することなく、全額のバックペイ命令を発した。
これに対して、Xが、中間収入の控除をしないバックペイ命令の取り消しを求めて提訴した。
一審・二審ともに命令の取消を認めたため、Yが上告した。
「法が、右禁止規定の実効性を担保するために、使用者の右規定違反行為に対して労働委員会という行政機関による救済命令の方法を採用したのは、使用者による組合活動侵害行為によって生じた状態を右命令によって直接是正することにより、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るとともに、使用者の多様な不当労働行為に対してあらかじめその是正措置の内容を具体的に特定しておくことが困難かつ不適当であるため、労使関係について専門的知識経験を有する労働委員会に対し、その裁量により、個々の事案に応じた適切な是正措置を決定し、これを命ずる権限をゆだねる趣旨に出たものと解される。
このような労働委員会の裁量権はおのずから広きにわたり」、「裁判所は、労働委員会の右裁量権を尊重し、その行使が右の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、または著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではないのである」。
「法7条1号に違反する労働者の解雇に対する救済命令の内容について考えてみると、法が正当な組合活動をした故をもってする解雇を特に不当労働行為として禁止しているのは、右解雇が、一面において、当該労働者個人の雇用関係上の権利ないしは利益を侵害するものであり、他面において、使用者が右の労働者を事業所から排除することにより、労働者らによる組合活動一般を抑圧ないしは制約する故なのであるから、その救済命令の内容は、被解雇者に対する侵害に基づく個人的被害を救済するという観点からだけでなく、あわせて、組合活動一般に対する侵害の面をも考慮し、このような侵害状態を除去、是正して法の所期する正常な集団的労使関係秩序の回復、確保するという観点からも、具体的に、決定されなければならないのである。
不当労働行為としての解雇に対する救済命令においては、通例、被解雇者の原職復帰とバックペイが命ぜられるのであるが、このような命令は、上述の観点からする必要な措置として労働委員会が適法に発しうるところといわなければならない」。
(第二鳩タクシー事件 最大判昭和52・2・23 民集31巻1号)
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