配転命令拒否の懲戒の判例
<判例>
Yは、大阪の本店のほか全国に十数か所に支店・営業所等を置き、従業員約800名を擁する会社である。
就業規則では、「業務の都合により社員に異動を命ずることがある。この場合には正当な理由なしに拒むことは出来ない」と定められ、従業員の出向、配転等が頻繁に行われていた。
Xは大学卒業直後、Yと労働契約を締結したが、その際、勤務地を大阪に限定する旨の合意はなく、入社当初から営業を担当していた。
XはYの神戸営業所に勤務していたところ、Yは、Xに対して名古屋営業所への転勤を内示したが、Xは、家庭の事情を理由に拒否した。
結局、同月末、Xの同意が得られないまま、YはXに名古屋営業所への転勤を命じ(本件配転命令)、Xはこれを拒否したため、懲戒解雇された。
Xは、本件配転命令の発令当時、母親(71歳)、妻(28歳)および長女(2歳)とともに、堺市内の母親名義の家屋に居住し、母親を扶養していた。
妻は無認可の保育所に保母として勤務していた。
「思うに、Yの労働協約及び就業規則には、Yは業務上の都合により従業員に転勤を命ずることができる旨の定めがあり、現にYでは、全国に十数か所の営業所等を置き、その間において従業員、特に営業担当者の転勤を頻繁に行っており、Xは大学卒業資格の営業担当者としてYに入社したもので、両者の間で労働契約が成立した際にも勤務地を大阪に限定する旨の合意はなされなかったという前記事情の下においては、Yは個別的同意なしにXの勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限を有するものというべきである」。
「そして、使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合または業務上の必要性が存する場合であっても、当該配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである。
右の業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。
(東亜ペイント事件 最二小判昭和61・7・14 労判477)
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