従業員の能力で解雇の判例
<判例>
解雇事由をみると、「精神または身体の障害により業務に堪えないとき」、「会社の経営上やむを得ない事由があるとき」など極めて限定的な場合に限られており、そのことからすれば、2号についても、右事由に匹敵するような場合に限って解雇が有効となると解するのが相当であり、2号に該当するといえるためには、平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込がないときでなければならないというべきである。
債権者について、検討するに、確かにすでに認定したとおり、平均的な水準に達していたとはいえないし、債務者の従業員の中で下位10%未満の考課順位ではある。
しかし、すでに述べたように右人事考課は、相対評価であって、絶対評価ではないことからすると、そのことから直ちに労働能率が著しく劣り、向上の見込がないとまでいうことができない。
(セガ・エンタープライゼス事件 東京地判 平11・10・15 労判770) |
雇用契約においては、労務の提供が労働者の本質的な債務であり、まして被告は、原告を総合職の従業員として期限を定めることなく雇用したのであるから、被告としては、ときには傷病等で欠勤することがあるにせよ、原告が長期にわたりコンスタントに労務を提供することを期待し、原告もそのような前提で被告に雇用されたと解されるところ、このような雇用関係下で、傷病欠勤が多く、労務を長期にわたって提供できないことを、従業員(労働者)としての適格性判断の材料にできないというのは不合理である。
(東京海上火災保険事件 東京地判 平12・7・28 労判797) |
他の営業担当の社員と比較して手配ミスが多かったことなどが原因で、顧客から信頼がなかなか得られなかったこと、本人が、石材サービスセンターにおいても、手配ミスを繰り返したり、顧客からの預かり品を紛失したり、顧客方に据え付けられている顧客の機械を壊したり、顧客方を訪問した際に軽率、非常識な対応がみられたり、技術的知識、技術的判断力の欠如のため顧客からのクレームに対して適切に対応できなかったり、営業目的で顧客方を訪問していなかったりしていたために、顧客からの信頼が得られがたく、そのため営業成績が劣悪であったこと、本人が、発注を受けていなのに工場に製造を指示したり、手配ミスのために顧客に納入を拒否されたりなどしたために、多数のデッドストックを発生させて会社に損害を与えたこと、本人が手配ミス等を度々繰り返したため、石材サービスセンターの事務担当の社員は、本人がした手配どおりにそのまま工場に製品の製造等を指示することはできず、本人がした手配の内容を一からチェックしなおさなければならず、その分だけ石材サービスセンターの事務担当の社員に余計な負担をかけることがあったこと、本人が業務報告を適切に行っていなかったこと、本人には会社の営業担当社員として必要不可欠な自動車の運転において難があったことを認めることができる。
・・・の外、本人には営業担当の社員としての能力に欠けるところがあることをうかがわせる事実が多数散見されることも併せ考えると、・・・解雇に及んだことも無理からぬことと認められる。
(旭ダイヤモンド工業雇用関係不存在確認等請求事件 東京地判 平13・3・15) |
控訴人は、被控訴人大学病院に赴任するまで15年以上の間、主に勤務医師として働いてきた(複数の病院において耳鼻咽喉科部長として勤務してきた)経験を有するのであるから、被控訴人大学としても、そのような控訴人を採用しておきながら、その後において、控訴人が大学病院に勤務する医師としての資質に欠けていると判断したのであれば、控訴人に対し、そのような問題点を具体的に指摘した上でその改善方を促し、一定の合理的な経過観察期間を経過してもなお資質上の問題点について改善が認められない場合は、その旨確認して解雇すべきところ、本件全証拠を検討しても、被控訴人らが、上記のような合理的な経過観察期間を設けた改善指導を行って、その効果ないしは結果を確認したなどの具体的な改善指導を行わず、期限の定めのないまま、控訴人をいわば医師の生命というべきすべての臨床担当から外し、その機会を全く与えない状態で雇用を継続したというものであって、おおよそ正当な雇用形態ということはできず、差別的な意図に基づく処遇であったものと断定せざるを得ない。
(学校法人兵庫医科大学事件 大阪高判 平22・12・17 労判1024) |
原告の業務遂行態度・能力(「業務遂行に誠意がなく知識・技能・能率が著しく劣り」)についてみるに、原告は、実はA社ではさしたる勤務経験を有さず、品質管理に関する専門知識や能力が不足していた。
また、作成した英文の報告書には、いずれも自社や相手方の名称、クレーム内容、業界用語など、到底許容し難い重大な誤記・誤訳や「カバーケース」を「hippo-case」と誤訳したように、英語の読解力があれば一見して明らかであるものを含め多数の誤記・誤訳があり、期待した英語能力に大きな問題があり、日本語能力についても、原告が日本語で被告に提出する文書を妻に作成させながら自己の日本語能力が不十分であることを申し出ず、かえって、その点の指摘に反論するなど、客観的には被告に原告の日本語能力を過大に評価させていたことから、当初、履歴書などで想定されていたのとは全く異なり、極めて低いものであった。
さらには、英文報告書は、上司の点検を経て海外事業部に提出せよとの業務命令に反し、上司の指導に反抗するなど、勤務態度も不良であった。
このような点からすると原告の業務遂行態度・能力は上記条項に該当するものと認められる。
(ヒロセ電機事件 東京地判 平14・10・22 労判838) |
原告は、リストラの対象とされた平成8年以前には、概ねB標準という評価を受けていたこと、平成8年以降平成11年3月までの仁丹栄光薬品での営業職としての勤務については、原告の後任の者でも予算を達成できなかったことや、同社の営業自体が不振であったことなどをも考慮すれば、原告の成績不振を一概に非難できないこと、平成11年10月以降の仁丹栄光薬品での業務課での業務は、かつての札幌支店での業務では女性の部下がいたことと異なり、コンピュータを使っての大量の伝票処理を一人でやるというものであり、原告にとって慣れない業務であったことが容易に推認できること、被告では、本社物流課での業務のように、原告がミスなく業務を行うことができる職種もあること、被告の就業規則では、人事考課の著しく悪い者等については降格ということも定められていることなどに鑑みれば、未だ原告のついて、被告の従業員としての適格性がなく、解雇に値するほど「技能発達の見込がない」とまではいえない。
(森下仁丹事件 大阪地判 平14・3・22 労判832) |
以上、指摘した点を考慮すると、Aにおける上記のような問題点は、必ずしも重大なものであることはできない。
本件解雇に至る経緯からうかがわれる事情(とりわけ、Aが理事長と総施設長の二女であるBがCの理事に就任することについて理事長及び総施設長の意に沿わない言動をしたことを理事長及び総施設長が不満に思い、このことが本件解雇の契機の一つとなったと考えられること)をも考慮すると、Aには就業規則23条4号に定めるところの勤務状態及び業務の遂行に必要な能力が著しく不良で就業に適さないとまでの事由を認めることができないことは明らかである、
(特別養護老人ホームサンシャインビラ事件 東京地判 平16・4・19 判タ1164) |
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