降格についての判例
<判例>
労働者に対する懲戒処分や人事上の降格処分の手続につき就業規則に特別な定めがない場合にも、使用者が懲戒処分及び人事上の降格処分を労働者に告知する際処分の根拠と理由を文書として交付して告知すること、及び、その文書の記載自体から当該降格処分が懲戒処分として行われたものか人事権の行使として行われたものかの疑義を生じる余地がない程度に明白であることが、のぞましいことはいうまでもない。
しかし、前記のとおり懲戒処分や人事上の降格処分についての処分の根拠や対象となる事実を文書で告げるべき義務がない学校法人において、使用者が懲戒処分として行われたものか人事権の行使として行われたものかその文書の記載自体から疑義が生じる余地が一切ない程度まで明白とはいえないとしても、その手続自体を理由に当該降格処分が無効となるものではない。
(アメリカンスクール事件 東京地判 平13・8・31 労判820) |
本件降格処分は、足立支所業務課副課長から同業務係長に役職を引き下げるものであるが、懲戒処分として行われたものではなく、控訴人の人事権行使として行なわれたものである。
このような人事権は、労働者を特定の職務やポストのために雇入れるのではなく、職業能力の発展に応じて各種の職務やポストに配置していく長期雇用システムの下においては、労働契約上、使用者の権限として当然に予定されているということができ、その権限行使については使用者に広範な裁量権が認められているというべきである。
そうすると、本件では、本件降格処分について、その人事権行使に裁量権の逸脱または濫用があるか否かという観点から判断していくべきである。
そして、その判断は、使用者側の人事権行使についての業務上、組織上の必要性の有無・程度、労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するか否か、労働者がそれにより被る不利益の性質・程度等の諸点を総合してなされるべきものである。
(東京都自動車整備振興会事件 東京高判 平21・11・4 労判996) |
懲戒処分は、企業秩序維持のための労働者に対する特別な制裁であることから、それを行うについて契約関係における特別の根拠を必要とするのが相当であり、就業規則上の定めが必要と解される。
したがって、使用者が懲戒処分として降格処分を行うには、就業規則上懲戒処分として降格処分が規定されていなくてはならない。
被告においては、前示のとおり、就業規則上懲戒処分として降格の規定はないから、被告は、懲戒処分として降格処分を行うことはできない。
他方、法人は、特定の目的及び業務を行うために設立されるものであるから、この目的なし業務遂行のため当該法人と雇用関係にある労働者に対し、その能力、資質に応じて、組織の中で労働者を位置づけ役割を定める人事権があると解される。
そして、被用者の資質が現在の地位にふさわしくないと判断される場合には、業務遂行のため、労働者をその地位から解く(降格する)ことも人事権の行使として当然認められる。
したがって、降格処分についての就業規則に定めがない被告においても、人事権の行使として降格処分を行うことは許される。
そして、前示のとおり被告の給与・退職金規定の第9条に各従業員の給料は、地位、能力を考慮して決められる旨の定めがあることからすれば、被用者の降格処分に応じて減給することも許される。
ただし、この人事権の行使は、労働契約の中で行使されるものであるから、相当な理由がないのに、労働者に大きな不利益を課す場合には、人事権の裁量逸脱、濫用として無効となるとするのが相当である。
(アメリカンスクール事件 東京地判 平3・8・31 労判820) |
使用者が従業員をどのような役職につけるか、その役職を解くかは、雇用契約、就業規則などに特段の制限がない限り、雇用契約の性質上、使用者が組織の必要性、本人の能力、適性などを考慮して決定する権限を有しており、このような人事権の行使は使用者の裁量の範囲に属するが、これが社会通念上著しく相当性を欠き、権利の濫用に当たる場合には違法になると解される。
裁量権を逸脱しているか否かは、業務上の必要性とこれによってもたらされる従業員の生活上の不利益を比較衡量して判断するのが相当である。
(全日本スパー本部事件 東京地判 平14・11・26 経1828) |
被告は、人事権行使の裁量の範囲内として本件降格処分を行いうると主張する。
しかし、被告は就業規則上、副参与職は「職能」資格であり、これは労働者が、一定期間勤続し、経験、技能を積み重ねたことにより得たものであり、本来引き下げられることが予定されたものではなく、これを引き下げるには、就業規則等にその要件が定められていることが必要である。
被告では、職能資格に変更についても就業規則上規定があるが、本件降格処分では、右定められた要件、手続が遵守されておらず、右被告の主張は採用しえない。
(フジシール事件 大阪地判 平12・8・28 労判793) |
本件降格は、被告において人事権の行使として行われたものと認められるところ、降格を含む人事権行使は、基本的に使用者の経営上の裁量判断に属し、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用に当たると認められない限り違法とはならないと解されるが、使用者に委ねられた裁量判断を逸脱しているか否かを判断するにあたっては、使用者における業務上・組織上の必要性の有無及びその程度、能力・適性の欠如等の労働者側における帰責性の有無及びその程度、労働者の受ける不利益の性質及びその程度、当該企業体における昇進・降格の運用状況等の事情を総合考慮すべきである。
(医療法人大森記念病院事件 東京地判 平9・11・18 労判728) |
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