長時間労働の発病の判例
職場での働きすぎの結果、脳血管疾患や虚血性心疾患についての労災認定が多く、厚生労働省は、長時間労働者への医師による面接指導を事業主に義務付けました。
具体的には次のようなことになります。
@時間外・休日労働が月100時間をこえ、かつ疲労の蓄積が認められるときは、労働者の申出を受けて、医師による面接指導を行う。
A時間外・休日労働が月80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められ、または健康上の不安を有している労働者の申出を受けて、医師による面接指導を行うよう努力する。 |
<判例>
Aの平成12年11月から平成13年4月までの就労については、所定時間外労働時間は平均90時間34分、法定時間外労働時間は平均69時間54分であり、疫学的研究で有意差が見られたとする「60時間以上」というレベルを超えており、その業務内容も、業務内容の新規性、繁忙かつ切迫したスケジュール等、Aに肉体的・精神的負担を生じさせたものということができる。
業務起因性を認めるには、うつを発症させる程度に過重な業務であれば足りるのであって、「特に過重な業務」である必要は必ずしもなく・・・Aの業務の量(時間)、質(内容)に照らすときは、Aの休日・休暇の取得の実態、並びに睡眠時間の実態をもってしてもなお、業務起因性を認めることを妨げるものではない。
・・・してみると、Aの業務とうつ病の発症との間には相当因果関係があるということができ、当該うつ病は「業務上の疾病」であると認められる。
(東芝事件 東京地判 平20・4・22 労判965) |
労災保険の危険責任の法理及び「ストレス 脆弱性」の理論の趣旨に照らせば、業務の危険性の判断は、当該労働者と同種の平均的な労働者、すなわち、何らかの個体側の脆弱性を有しながらも、当該労働者と職種、職場における立場、経験等の点で同種のものであって、特段の勤務軽減まで必要とせずに通常業務を遂行することができるものを基準とすべきである。
このような意味での平均的労働者にとって、当該労働者の置かれた具体的状況における心理的負荷が一般に精神障害を発病させ死亡に至らせる危険性を有しているとはいえ、特段の業務以外の心理的負荷及び個体側の要因のない場合には、業務と精神障害及び死亡との間に相当因果関係が認められると解するのが相当である。
(いなげや事件 東京地判 平23・3・17 労判958) |
長時間労働の継続などにより疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なうおそれのあることは、広く知られているところであり、うつ病の発症及びこれによる自殺はその一態様である。
そうすると、使用者としては、上記のような結果を生む原因となる危険な状態の発生事態を回避する必要があるべきであり、事前に使用者側が、当該労働者の具体的な健康状態の悪化を認識することが困難であったとしても、これだけで予見可能性がなかったとはいえないのであるから、使用者において、当該労働者の健康状態の悪化を現に認識していなかったとしても、当該労働者の就労環境等に照らして、当該労働者の健康状態が悪化するおそれがあることを容易に認識し得たというような場合には、結果の予見可能性があったと解するのが相当である。
(メディスコーポレーション事件 前橋地判 平22・10・29 労判1024) |
Aにとって、それまで研究技術を中心とする職務からエコーへの出向、北九州事業所長への異動、勤務地の変更、単身赴任が極めて大きな心理的負荷となり、これが継続しているところで、東防波堤第五工区問題によって相当に強い心理的負荷を受け、加えて、Bの欠勤等への対応、業務委託先社員の問題、関連会社と良好な関係が築けないことが心理的負荷となったものであり、こうした事情は、通常の勤務に就くことが期待されている平均的な労働者にとっても、強度の心理的負荷を与える過重なものであり、社会通念上、精神障害を発症させる程度の危険性を有するものということができる。
(テトラ事件 東京地判 平21・2・26 労判990) |
第一審原告の医療機関において診療を受けていることを産業医等に告げていなかったために、産業医において第一審原告の健康状態につき危惧の念を抱きえる状況にはなく、本件うつ病の発病についての予見可能性がなかった旨主張するが、むしろ第一審被告の産業医としては、上記の問診結果を受けて、第一審原告に対するより詳細な診察を実施するなどして、第一審原告の健康状態に問題がないことを確認すべき責務があったものというべきであり、第一審被告の主張は採用することができない。
(東芝事件 東京高判 平23・2・23 労判1022) |
使用者に安全配慮義務違反が認められるには、予見可能性が必要であるところ、予見義務の内容として、具体的に特定の疾患の発症を予見し得たことまでは要求されず、「過重労働をすれば、労働者の健康が悪化するおそれがある」という抽象的な危惧が予見し得たならば予見可能性は肯定されるのであって、具体的には、@使用者または代理監督者たる上司が、当該労働者が心身の健康を損なっている状態(体調悪化)を認識していたかまたは認識可能であったか、もしくは、A心身の健康を損なう原因となった労働実態について、使用者または代理監督者たる上司が認識していたかまたは認識可能であれば、上記予見可能性が認められるというべきである。
(マツダ事件 神戸地姫路支判 平23・3・25 労判1026) |
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