退職金と借入金を相殺の判例
<判例>
訴外Aは、Y会社に在職中、同社の住宅財形融資規程に則り、元利均等分割償還、退職した場合には残金一括償還の約定で、同社から87万円を、B銀行から263万円をそれぞれ借り入れた。
各借入金のうち、Yへの返済については、住宅財形融資規程およびYとAとの間の住宅資金貸付に関する契約証書の定めに基づき、YがAの毎月の給与および年2回の賞与から所定の元利金等分割返済額を控除するという方法で処理することとされ、Aが退職するときには、退職金その他より融資残金全額を直ちに返済する旨約されていた。
Aは、交際費等の出費に充てるために借財を重ね、破産申立をする他ない状態になったことから、Yを退職することを決意し、Yに退職を申し出るとともに、上記各借入金の残債務を退職金等で返済する手続をとってくれるように依頼した。
Yは、Aに支払われるべき退職金と給与から、各借入金を控除し、Aの口座に振り込んだ。
その後、Yの担当者が、Aに対して、事務処理上の必要から領収書等に署名捺印を求めたが、Aはこれに異議なく応じた。
その後、Aの申立により、裁判所は破産宣告をし、Xを破産管財人に選任した。
そこで、Xは、YがAの退職金につき、以上のような措置をとったことは、労基法24条に違反する相殺措置であるとして、Yに対して退職金の支払を請求した。
労基法24条1項所定の「賃金全額払いの原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものというべきであるから、使用者が労働者に対して有する債権をもって労働者の賃金債権と相殺することを禁止する趣旨をも抱合するものであるが、労働者がその自由な意思に基づき右相殺に同意した場合においては、右同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、右同意を得てした相殺は右規定に違反するものとはいえないものと解するのが相当である(最高裁昭和・・・48年1月19日第二小法廷判決・民集27巻1号)。
もっとも、右全額払いの原則の趣旨にかんがみると、右同意が労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ慎重に行われなければならないことはいうまでもないところである」。
(日新製鋼事件 最二小判平成2・11・26 民集44巻8号)
転職サイトを使いこなす!
スポンサードリンク
|
|